SatoshiWatanabeの日記

利己的な遺伝子 ひとり読書会 2

今回は生命の起源についての一説についての話です。第1章に続きあくまで序論といった感じです。本題の進化の理論の前にどのようにして生命が始まりうるかを述べています。


利己的な遺伝子 読書会1:人はなぜいるのか
利己的な遺伝子 読書会2:自己複製子
利己的な遺伝子 読書会3:不滅のコイル
利己的な遺伝子 読書会4:遺伝子機械

第2章 自己複製子

この章の内容は大まかに


  1. 安定した分子形成の正当性
  2. 生命の起源-自己複製子が生じるまで
  3. 生命の起源-有利な自己複製子の特徴
  4. 生命の起源-自己複製子の競争の進化


となっています。

1. 安定した分子形成の正当性

自然においては安定な分子が形成されやすく維持されやすいということがいかに正当かを例を挙げて述べています。内容はいたって当たり前のことで

  • 続く化学進化説を展開するにあたっての下準備
  • 安定な分子が形成されるだけでは生命の起源の説を唱えるには不足することの強調


という二点のために述べられています。特に安定でさえあればそれがヘモグロビンのような複雑な構造を持つタンパク質であっても維持されうることを強調しています。


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ヘモグロビン

画像:wikipedia


ここで簡単にヘモグロビンについて。ヘモグロビンは主に上画像のような \alpha-グロビンと \beta-グロビンという二種類のグロビンタンパクが二つずつ組み合わさったヘテロ四両体(テトラマー)です。各々のグロビンタンパクにはヘムが強く結合しています。上画像中では緑色でヘムbが表示されています。ヒトでは第16染色体に \alpha-グロビン、第11染色体に \beta-グロビンの遺伝子があります。ヒトなどの霊長類成体では \beta-グロビン遺伝子の他に \delta-グロビン遺伝子という遺伝子もあり、微量ですが \alpha_2\delta_2のヘモグロビンも作られます。 \delta-グロビン遺伝子も \beta-グロビン遺伝子と同じく第11染色体上にあります。

2. 生命の起源-自己複製子が生じるまで

生命の起源の一説として化学進化説とワールド仮説の混合のような内容が語られます。まず有名なユーリー・ミラーの実験について述べられています。つまり地球環境での安定した無機物質である水・二酸化炭素(文中では二酸化炭素ですが実際の実験では水素分子が使われました)・メタン・アンモニアに高エネルギー(電気火花)を与えることで有機分子であるアミノ酸が生成されうることを示した実験です。この実験は生物に重要なタンパク質の構成要素であるアミノ酸が自然に生じうることを示すものとされていました。現在では反証がありますが、あくまで例の一つとして紹介しています。


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ユーリー・ミラーの実験

画像:wikipedia


つまりは自然にも有機分子は形成されうるということが主張であり、その過程がどのようなものであったかはあまり深い意味は持ちません。同じような実験でDNA, RNAの構成要素であるプリン(A, G)・ピリミジン(C, T, U)も合成されている事にも言及しています。

これら自然に生じたプリン・ピリミジン・アミノ酸などの有機分子が小滴の中で濃縮されより大きな高分子有機化合物を形成したという仮説、つまりコアセルベート説のような内容が続きます。私が高校の時の生物の教科書にもこのコアセルベート説が載っていました。そしてある時偶然(!?)自己複製子、つまり自分のコピーを生産する能力を持った高分子が生じたとしています。あくまで自己複製子とのみ語られており、それがDNAなのかRNAなのかという具体的な高分子名は明言してはいません。ここで偶然自己複製能力を持つ高分子が生じたという部分に飛躍を感じると思います。本文中でのこの主張に対する正当化としては、このようなありそうにない事でも数億年という長い年月があれば起こりうる、というものでした。ですが、具多的にどの程度の確率で起こるか、またその計算が何故正当かということまでは言及されていませんので正直しっくりこない部分です。まぁ、この生命の起源についてはあくまでこういう仮説があるという紹介でしかなく、本筋に深くかかわるものではありませんので執着する必要はないかと思います。事実補注でもドーキンス自体がこの仮説が正しいと主張したいわけではなく、こういう仮説もあるという紹介にすぎないと述べています。ほかにも

  • ジョン・バナールによる表面代謝説(粘土説)
  • イリヤ・プリゴジン、マンフレート・アイゲン、スチュアート・カウフマンなどによる自己組織化説


などの自己複製子(あわよくば自己触媒的な)が生じうる説があります。

また、これらの自己複製子が多様性を持つために誤りを起こす性質を持っている必要性についても語られます。つまり変異です。一度自己複製子が生じれば、この誤りにより多様な自己複製子が生成されるであろうということです。

3. 生命の起源-有利な自己複製子の特徴

では、この多様な自己複製子のうちどのような特徴を持つものが多くなるでしょうか。ということで

  • 寿命
  • 多産性
  • コピーの正確さ

の三つを有利に増えるための主要な特徴として挙げています。つまりこれらを獲得するように自己複製子は進化していくという主張です。ドーキンスはこれらの現象を明確に「進化」、「自然淘汰」に他ならないものとして扱っています。

4. 生命の起源-自己複製子の競争の進化

自己複製子の構成要素の分子は自己複製子が増加していくとともに減少するために競争が起こるという事へ話が進みます。その競争は当然競争相手たる他の構造を持つ自己複製子よりもより高い安定性を持つと同時に、競争相手の安定性を減じる様な手段の獲得へつながります。ひとつ前の節で主張された有利な自己複製子の3つの特徴は他の遺伝子に干渉しない個々の優位性でしたが、ここで一歩進んで他の自己複製子への干渉機能について言及され、それを競争と呼んでいるわけです。文中では具体的にライバル変種の分子を化学的に破壊する方法を「発見」し、それによって放出された構成要素を自己のコピーの製造に利用するものさえ現れたであろう。と主張されています。それを防ぐためには自分を破壊から守る保護用の外被として「生存機械」を築いたのだという流れです。保護用の外被とはウィルスのキャプシドのようなものを想定しているのかと思います。


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トマト萎縮病ウィルス(TBSV)のキャプシド

画像:wikipedia


最初からTBSVのように複雑な外被ではなかったでしょうけど。当然脂質二重層などを想定していたかもしれませんが明言はされていません。別にどちらでも良い話ですので不確かなことを明言するのを避けたのだと思います。そして最初はこのような保護用の外被でしかなかった「生存機械」も、40億年間の競争を続けていくことによりついには現在のあらゆる生物となったと主張されています。この最後の話の流れはごく主流の進化論を指しているのでこれから詳しく語られることですが、あえて出だしに不明瞭で諸説ある生命の起源の話を持ち出したは何故でしょうか。おそらくはトップダウン式に現在の生物の話から始めても遺伝子という高分子構造が根底にある事に目が向きにくい事を考えてのことだと思います。このようにたとえ仮説とは言え分子が生成されたであろう過程を初めに提示することにより、これから語られる進化の理論においても自己複製子たる高分子(DNA)に読者の注意を向けさせようという意図があるのでしょう。


今回はこれくらいにして次回は第3章 不滅のコイルを読んでいきます。


利己的な遺伝子 読書会1:人はなぜいるのか
利己的な遺伝子 読書会2:自己複製子
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