SatoshiWatanabeの日記

Fuga ひとり読書会 3 : Fuga 1 四声 C-Dur 分析3

前回は動機について具体的にみていきました。今回は各転調について具体的にみていきます。


Fuga 読書会 1:Fuga 1 四声 C-Dur 分析1
Fuga 読書会 2:Fuga 1 四声 C-Dur 分析2
Fuga 読書会 3:Fuga 1 四声 C-Dur 分析3
Fuga 読書会 4:Fuga 1 四声 C-Dur 分析4
Fuga 読書会 5:四方山話
Fuga 読書会 6:Fuga 1 四声 C-Dur 演奏

Fuga 1 四声 C-Dur 分析3

転調は楽節1には存在せず楽節2から始まります。ですので楽節2から最後の楽節4までを見ていきます。

楽節2の転調

楽節2ではC-Dur→G-Dur→a-mollと下記のように転調していきます。



f:id:SatoshiWatanabe:20190615125106p:plain



まずはC-DurからG-Durへの転調ですが曲中初の転調ということもあり下記のような周到な予備が用意されています。



f:id:SatoshiWatanabe:20190615130044p:plain


①初のⅡのⅤ

  • 曲中初めてC-DurにおけるⅡのⅤの和音が登場します。C-DurのⅡはつまりdですのでG-DurにおけるⅤにあたります。ただしFの音はFisに導音化されていません。このG-Durの属和音であるdに対する強進行によりG-Dur(もしくはd-moll)の調整を感じさせる進行になっています。

②新動機

  • 楽節2が始まって初めて楽節1にはない新動機が現れます。この新動機は今までの動機とは違い拍の頭から始まる動機のため目立ちます。この明確な変化も続く調の変更を予期させるための予備としての働きを持つと考えます。

③ストレッタなし

  • T5(Ⅰ)→T6(Ⅴ)ときて楽節2三番目のテーマT7(Ⅴ)が始まります。楽節1同様テーマはⅠ→Ⅴ→Ⅴの流れです。ところが楽節2において初めのT5(Ⅰ)→T6(Ⅴ)はT5(Ⅰ)の第3音目からT6(Ⅴ)がストレッタで入るのに対し、それらが終わってから始まるT7(Ⅴ)に対する応答として予測されるT8(Ⅰ)は第3音目になっても現れません。これは一つにはその応答の変化という要素が、一つにはⅤ(つまりG)のテーマが強調されるという要素がG-Durへの転調を予期させるための予備として働いていると考えます。

④ⅤのⅤ

  • ①のⅡのⅤからⅡへの強進行後いったん9小節目頭でFが登場しC-Durにとどまりますが、このFは二分音符と長く伸ばされ強調されます。これが④にきてⅤのⅤの和音の第3音としてFisつまりG-Durにおける導音に変化し後続のGの和音に強進行することでG-Durへ転調します。「ⅡのⅤ→Ⅱ」→「ⅤのⅤ→Ⅴ」という進行はG-Durで考えれば「ⅤのⅤ→Ⅴ」→「Ⅴ→Ⅰ」という進行ですので強くG-Durへの転調を感じさせます。ただし先にも述べた通り最初のⅡのⅤが解決するⅡ(d)においてFは導音化されていませんので導音化されている場合よりかは強い進行とは感じられません。事実「ⅡのⅤ→Ⅱ」の進行後一度C-Durを経ていることからもあくまで転調の予備としての「ⅡのⅤ→Ⅱ」と考えられます。

⑤明確なカデンツ

  • ④で事実上転調していますが⑤では明確なカデンツとしてC-Durでいう「ⅤのⅤ→Ⅴ」の強進行が繰り返されます。このおかげでG-Durへの転調がより明確になります。


続いてG-Durからa-mollへの転調ですがこれは非常に簡単な予備のみが用意され速やかに転調します。



f:id:SatoshiWatanabe:20190615135649p:plain


①M4が2°下行

  • M4は下記のようにM3が3°下行で2回繰り返されるモチーフでした。ところがこの最後のM3が2°下行に変化しています。これはこの後の転調に合わせ進行を調整する必要性から生じたものと考えます。ここでの和声進行はⅡ→Ⅴ→Ⅰ→Ⅵ(a→D→G→e)ですが最後のⅥはa-mollにおけるⅤにあたるeの和音です。ただしGの音はGisに導音化されていません。
  • M3

f:id:SatoshiWatanabe:20190615143510p:plain

  • M4

f:id:SatoshiWatanabe:20190615143024p:plain
②M3の繰り返しにおけるGの導音化

  • ②では①の最後のM3が一拍おいて同度で繰り返されます。しかし今度はGが#してG-DurにおけるⅡのⅤの和音つまりa-mollのⅤの和音であるE(E-Gis-(H))になっています。その事前に①においてeの和音(E-G-H)の導音化されていないGが付点八部に持続され強調されたのち、この②においてⅡのⅤの和音の第3音としてGisつまりa-mollにおける導音に変化し後続のaの和音に強進行することで転調します。これはC-Dur→G-Durの転調において④で述べた内容と同じ種類の転調方法です。

③a-mollのⅤのテーマ

  • a-moll転調直後にT10が現れますがこれはEから始まるテーマです。EはG-DurにおいてはⅥですがa-mollにおいてはⅤとなります。ここまでテーマはすべて現在の調におけるⅠもしくはⅤのみしか登場していませんのでここでもⅤと取る(a-moll調のテーマと取る)ことが自然です。言い方を変えれば聴覚はその調のⅠもしくはⅤのテーマを期待します。そのおかげでこのT10がEから始まるということがa-mollの調性をより強調し転調を明確にします。
楽節3の転調

楽節3ではC-Durからd-mollへと下記のように転調します。



f:id:SatoshiWatanabe:20190615211132p:plain


14小節目は楽節2の最後の調a-mollのトニックであるⅠつまりa(A-C-(E))への終止から始まります。この和音をC-DurのⅥとみなし並行調であるC-Durとして楽節3は始まります。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615155031p:plain



ここからⅤへの疑似的転調が始まります。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615160028p:plain


①Ⅴのテーマが連続する

  • C-DurのⅠから開始する初めのテーマを除きストレッタで続く三つのテーマすべてがⅤ(G)の開始音である事からG-Durへの転調を意識させる流れです。

②ⅤのⅤ

  • この連続するⅤのテーマの最後のテーマが入ってすぐにⅤのⅤの和音が登場します。この和音により非常に強くG-Durへの転調を予期させます。


しかしG-Durに転調することはなく調性をあいまいにしていきます。具体的にみていくと


f:id:SatoshiWatanabe:20190615205737p:plain


のようになります。ここで和音の表記は芸大和声の表記に倣っています。ただし5度上変の和音は「5↑」と和音の下に表記するように変更しています。見ていくとわかる通り

  • Ⅴ→Ⅵ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅱ→Ⅳ→ⅣのⅣ→Ⅱ


と目まぐるしく調が変化しています。まさにd-mollへ転調する過程として調性をあいまいにしていることが見て取れます。最終的には19小節目のカデンツをもって明確にd-moll(終止和音はD(D-Fis-(A)))へ落ち着きます。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615210744p:plain

楽節4の転調

この楽節の転調はG-Dur→C-Dur→F-Dur→C-Durと下記のように進みます。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615211521p:plain


出だしの転調は楽節3の最終調d-mollから楽節4の開始調G-Durへの転調です。d-mollの最終和音のⅠはD(D-Fis-(A))としているため新調G-Durにおける属和音として働きます。まったく同様の方法つまり旧調の主和音を続く新調の属和音とみなすという方法が連続して行われます。当然これが成立するためにd-moll→G-Dur→C-Dur→F-Durと4度上行転調を繰り返すこととなります。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615213345p:plain


そして最終的に26小節目の第三拍目にC-DurのⅠの上のⅤが現れ主調C-Durへ戻り終止します。


f:id:SatoshiWatanabe:20190615214014p:plain


今回はこれくらいにして次回は並行・反行について考察していきます。


Fuga 読書会 1:Fuga 1 四声 C-Dur 分析1
Fuga 読書会 2:Fuga 1 四声 C-Dur 分析2
Fuga 読書会 3:Fuga 1 四声 C-Dur 分析3
Fuga 読書会 4:Fuga 1 四声 C-Dur 分析4
Fuga 読書会 5:四方山話
Fuga 読書会 6:Fuga 1 四声 C-Dur 演奏