SatoshiWatanabeの日記

Fuga ひとり読書会 2 : Fuga 1 四声 C-Dur 分析2

前回は

  1. 各楽節の特徴
  2. 調の構成
  3. テーマの構成


について記述しました。今回は動機について分析していきます。


Fuga 読書会 1:Fuga 1 四声 C-Dur 分析1
Fuga 読書会 2:Fuga 1 四声 C-Dur 分析2
Fuga 読書会 3:Fuga 1 四声 C-Dur 分析3
Fuga 読書会 4:Fuga 1 四声 C-Dur 分析4
Fuga 読書会 5:四方山話
Fuga 読書会 6:Fuga 1 四声 C-Dur 演奏

Fuga 1 四声 C-Dur 分析2

まずは表記ですが


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というルールで表記していきます。

楽節1の動機

楽節1では五つの動機が出てきます。まずM1~M3はテーマに使われる動機で各々下記のようになります。

  • M1

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  • M2

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  • M3

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前回にも指摘した通りM3は頻度高くあらわれる重要動機です。さらにM4とM5がはそれぞれ下記のようになります。

  • M4

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  • M5

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M4は3度ずつ下降しながらM3を3回繰り返すものですが、楽節1と2でまとまって出てくることの多い形のためM3とは別途動機扱いします。これらの動機を念頭に置いて楽節1を見ていくと


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のように分解できます。まず注目すべき点はT1(Ⅰ)のコデッタとしてM4が現れる部分です。ここで「コデッタ(codetta)」という言葉の意味が多義的なため誤解のないように私の使用するこの言葉の意味を明確に定義させていただくと

  • テーマに対する小結尾「句」の意味で用いる
  • 特にテーマの尾部を反復して結ぶ場合にのみ使用する


とします。


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これはこの楽節の基本的なコデッタの形になっておりテナー以外のすべての声部のコデッタとして現れます。ただしソプラノのみ一拍遅れのM4(i)(反行M4)として現れることに注意します。また4小節目ではM1の反行がアルトに表れます。これはテナーのT(Ⅴ)のM1との間に反行の進行を形成します。


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M1とM1'の反行は別の部分にもありますが、M1どうしの反行は曲中でこの一か所のみです。またM5はこの楽節では頻度が高く、アルト→ソプラノ→アルトの順で現れます。


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  • M5①

  • M5'②

  • M5'③


初め以外はすべて変形型のM5'として現れます。

楽節2の動機

楽節2では新たにM6, M7, M8の三つの動機が登場します。

  • M6

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  • M7

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  • M8

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このうち完全に新規の動機といえるのはM8のみで、M6はM2の後半部分とM3の組み合わせ、M7はM3の組み合わせでできた動機です。M6, M7ともに繰り返し現れるため別途動機として扱っています。これらの新動機を念頭に楽節2を見ていくと


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のように分解できます。まず初めに注目するべきは8小節目のM6による声部をまたいで応答する反復進行です。


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M6の初めの二音は4度上行の進行ですが、対して声部間をまたいで4度下降の進行にもなっています。四つ目の反復はM6の前半のみで途切れていますが4度上行跳躍の特徴的な響きのおかげで反復のニュアンスは生き残っています。続いて現れるM7は


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のようになっています。初めにM3を十六分前にずらしたものの連続として現れ、続いてM3と同じ拍の連続として現れます。この楽節だけを見るとこのM7とM7'はこじつけのように思われるかもしれませんが、楽節4で再登場するM7を見ていただければ動機として扱われていることが理解してもらえると思います。つまり楽節4でもM7の反行型が十六分ずらした同度で出てくるためです。また9小節目にはM5の音価を詰めた形状が出てきます。


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  • M5(標準型)

  • M5'④



このM5'では最後の音が4°上行跳躍ではなく5°上行跳躍に変化しています。最後にM8ですが


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のように最初の二音が4°上行跳躍と特徴的な音にもかかわらず楽節2最後のM8'は開始が2°上行です。さらにこのM8'は最後の音が2°下降ではなく2°上行となっているのです。もはや別動機とすべきとも考えられますがあえてM8'としています。なぜならばこれがのちの楽節4で重要な反復進行となって表れるためです。つまり楽節4では開始は4°上行跳躍だが最終音は2°上行という形でM8の反復進行が現れるためです。これも具体的なことは楽節4で取り上げます。

楽節3の動機

楽節3は込み合った楽節ですが新たに登場する動機はありません。全体を見ていくと


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のように分解できます。まず15小節三拍目裏からのソプラノとアルトによる掛け合いから見ていきます。


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ソプラノはテーマの開始部分(M1+M2の途中という構造)を4°上行で一度だけ繰り返しテーマに入ります。それに対してアルトは同じタイミングでスタートしテーマの開始部分(M1'のみの構造)を二度繰り返したのちテーマに入ります。この開始部分はM1とM1'による3°の並行進行です。最後にバスがM1'(i)として現れアルトとの間に反行進行を形成します。ここでバスの最終音へは2°下行ではなく2°上行に変化しています。また17小節目の直後を見てみると


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というようにM2'とM2の3°並行進行があります。最後の音へは跳躍の減五度並行進行に変化します。このM2の並行はこの楽節固有のものでほかの楽節には出てきません。また続く18小節目と19小節目を見てみると


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  • M5(標準型)

  • M5'⑤

  • M5'⑥


のようにM5の標準型の音価を詰めた形がカデンツ中に連続して現れます。

楽節4の動機

楽節4では最後に新しい動機M9が現れます。

  • M9

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これを念頭に楽節全体を見ていくと


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のように分解できます。まずは20~21小説に出てくる呼応から見ていきます。


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まず20小節目では6°(正確には8°+6°)上行でバスにアルトが応じます。アルトの最終音は2°下行から2°上行に変化しています。またこの呼応の直後21小節目から今度は5°上行でテナーにアルトが応じます。ただし尾句は反行型に変化しています。どちらの呼応型もM3を基調にした動機ともとらえることが出来ます。続いて22~23小節ですが


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のように楽節1と同じくM7とM7'が同度十六分ずれで現れます。ただし楽節1とは

  • 反行型で現れる
  • M7とM7'の出てくる順序が逆
  • 楽節1は同度だが楽節4は2octave離れている


という違いがあります。続いて23小節目ですが


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のようにM8'による呼応があります。開始の二音が4°上行跳躍という特徴的な動機のため最後テナーのM2の一部である4°上行跳躍までも呼応の続きかのように響くところに面白さがあります。これらは最後の音が2°上行に変化したM8'ですが、この呼応があるために楽節2におけるM8から形状の遠い動機(開始2°上行+終了2°上行)をM8'扱いしたのでした。また25小節目になって新しい動機M9が現れます。


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このM9は2°上行で繰り返されます。

今回はこれくらいにして次回は転調の予備と並行・反行についてみていきたいと思います。


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