SatoshiWatanabeの日記

Fuga ひとり読書会 1 : Fuga 1 四声 C-Dur 分析1

バッハの代表的な鍵盤楽器曲の一つである平均律クラヴィーア曲集についてもっとよく理解したいという欲望の下、ひとり読書会と称してFugaを独自に考察していこうと思います。やはり最初はC-Durからだろうということでまずはこいつをやっつけられたらいいなと思います。独自にというくらいなので記述している内容はあくまで私の解釈ですのであしからず。扱うテキスト(スコア)はピアノ・チェンバロ等クラヴィーアを学んでいる方には言わずと知れた平均律クラヴィーア曲集第一巻です。ウィーン原典版に基づいた自作の改造楽譜(運指がないだけでほぼ同じ)を使用します。バッハの鍵盤楽器曲といえばこれとフーガの技法・ゴルドベルグ変奏曲・各組曲などが代表的だと思いますが、中でもやはり平均律クラヴィーア曲集は鍵盤奏者にはなじみが深いかと思いますので選びました。


Fuga 読書会 1:Fuga 1 四声 C-Dur 分析1
Fuga 読書会 2:Fuga 1 四声 C-Dur 分析2
Fuga 読書会 3:Fuga 1 四声 C-Dur 分析3
Fuga 読書会 4:Fuga 1 四声 C-Dur 分析4
Fuga 読書会 5:四方山話
Fuga 読書会 6:Fuga 1 四声 C-Dur 演奏

Fuga 1 四声 C-Dur 分析1

使用する譜面は以下のものです。





一曲全体を通した演奏を聞くときは下記を聞いてください。打ち込みです。


楽節の構成

楽曲は全27小節からなり、この曲は大きく4つの楽節からなっています。


  • 楽節1:1小節~6小節
  • 楽節2:7小節~13小節
  • 楽節3:14小節~19小節の二拍目
  • 楽節4:19小節の三拍目~27小節(最後)


それぞれの楽節の大雑把な特徴を表にすると

楽節1234
小節数675.58.527
調の数132(+1)*135
テーマ467(+2)*24(+2)*223
Ⅰ・Ⅴ以外のテーマ0 01(+1)*21(+2)*24
変形テーマ00202
ストレッタ036(+1)*22(+1)*212
コデッタ付き31037
持続音(二分以上)11068
モチーフの並行・反行221510
(*1) カッコ内は一小節に満たない一時転調(疑似的な転調)
(*2) カッコ内は楽節3から楽節4にまたがるテーマにおけるもの


のようになります。また、これらの楽節の特徴をまとめると


  • 楽節1
    • 主調のみ
    • 各声部のテーマが一度ずつ現れる
    • ストレッタは出てこない
    • テナーのテーマ以外はコデッタ付き
    • モチーフ1の反行は楽節1のみに表れる

  • 楽節2
    • 初の転調(Ⅰ→Ⅴ)に伴う長い予備がある
    • ストレッタ初登場
    • 出だしからストレッタ
    • 楽節1とは別の形のコデッタが一度だけ現れる
    • 二声部間での呼応する反復進行が初めて現れる
    • 明確なカデンツが初めて現れる
    • モチーフ3の反行が初めて現れる

  • 楽節3
    • 小節数が少ない
    • 小節数に対して転調が多い
    • 小節数に対してテーマ数が多い
    • Ⅰ・Ⅴ以外のテーマが初めて現れる
    • 変形テーマが初めて現れる
    • ほぼすべてのテーマがストレッタ
    • 三重のストレッタが初めて現れる
    • コデッタ付きのテーマが一つもない
    • 二分以上の持続音が一つもない
    • モチーフ2の並行は楽節3にのみ現れる
    • 楽節をまたぐテーマが初めて現れる(カデンツ中に開始)
    • 唯一モチーフ3の並行・反行が出てこない

  • 楽節4
    • 楽節3からの転調を含め同じ転調のしかたが3連続続く(最後だけ別)
    • Ⅰ・Ⅴ以外のテーマが多い
    • ストレッタは少ない
    • コデッタが楽節1と同じく多い(3回)
    • 二分以上の持続音が多い
    • 二声部間での呼応する反復進行がある(楽節2,4のみ)
    • モチーフ3の並行・反行が多い
    • モチーフ3の並行・反行が初めて3連続で現れる


となります。ここで、モチーフ1だの2だのと言っていますが、これは読書会2で具体的に述べますので今は流しておいてください。

調の構成

続いて楽節ごとの調の構成について俯瞰していきます。


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  • 楽節1
    • 主調のC-Durのみで構成されていますので調性に関して特に言及することはありません。
  • 楽節2
    • 8小節目からC-Dur→G-Durの転調の予備が始まり9小節目最後にG-Durに転調しますが完全な確定は10小節目の導音だと考えます。また11小節目の予備から今度は速やかにa-mollへ転調して終止します。
  • 楽節3
    • 15小節4拍目から調性をあいまいに展開したのち明確にd-mollへ転調し終止します。この調性の不安定化は初めにⅤ調への疑似的な転調に始まります。つまりⅤ調へ転調するかのように見せかけることから始まりますが、これは後に詳しく見ていきます。
  • 楽節4
    • まず最初にd-mollからG-Durへ転調することに始まり、d-moll→G-Dur→C-Dur→F-Durと4度上行の転調を重ねますが、これはらすべて同じ方法つまり前の調の主和音を次の調の属和音とみなす方法で転調が行われます。そして最後に主張のC-Durへ戻り終止します。

テーマ

調性をざっくり見たところでテーマについてです。テーマは3つの動機からなり、スケール音のうちⅦの音を除いたすべての音が使用されます。開始音はⅠ、終止音はⅢです。具体的には下記のようになります。


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特に動機3(以降M3のように表記します)は曲中随所で多用される重要な動機です。では各々の楽節でどのようにテーマが現れるのかを見ていきます。まずは楽節1では


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のようにテーマが現れます。ここでT1(Ⅰ)は現在の調におけるⅠを開始音とする一つ目に表れるテーマでを表します。T2(Ⅴ)ならば二つ目に表れるⅤを開始音とするテーマです。上記譜面とのおり楽節1では調性はC-Durのみでありアルト→ソプラノ→テナー→バスの順で一度ずつストレッタなしのテーマが展開されて終了します。典型的なフーガの出だしですが、


・最初のdux, comesが終わった後反復進行や自由句を挟まず次のduxが開始される
・二回目のテナー・バスによるdux, comesはⅠ→ⅤではなくⅤ→Ⅰの応答である


等の特徴があります。またコデッタも多い楽節ですが、これについては後ほど詳細にみていくとして今はテーマ自身への言及へとどめます。続いて楽節2では


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のようにテーマが現れます。まず初めからストレッタが現れます。T5(Ⅰ)→T6(Ⅴ)→T7(Ⅴ)と楽節1と同じ順ですが、T7(Ⅴ)はストレッタでT8(Ⅰ)が入っては来ません。これはその直後のG-Durへの予備の一つとして働いていると考えられますが、転調の予備は後ほど詳しく考察するとしてここではテーマを主体に見ていきます。T7(Ⅴ)の途中でG-Durへ転調しT8(Ⅰ)とT9(Ⅴ)がストレッタで現れます。ここでのⅠ・Ⅴは現在の調つまりG-DurにおけるものですのでGとDを意味しています。初めのC-Durにおけるストレッタと声部の上下が逆転していますがタイミングは同じです。つまりduxの3音目にcomesの1音目が重なります。そしてこの2つのテーマの最後付近でa-mollへ転調しT8(Ⅰ)が終わった直後にT10(Ⅴ)が始まります。この最後のT10(Ⅴ)はT9(Ⅴ)のM3にわずかにかぶる形のストレッタになっています。では次の楽節3を見ると


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のようになっています。T11, T12, T13の三重ストレッタ、T14, T15, T16, T17の四重ストレッタと続く非常に密度の高い楽節です。T16(Ⅴ)のⅤはテーマは開始直後に一時転調するd-mollにおけるⅤの意味で書いています。その後楽節3と4をまたぐテーマT18(Ⅴ), T19(Ⅱ)が最後に表れます。楽節をまたぐテーマは曲中この二つのみです。またこの楽節では二つの変形テーマがあります。まずはT12ですが、M1-M2まででM3が欠けたテーマです。M3は欠けているのですが

  • 三重ストレッタ中という込み合った中での真ん中(第二番目)で開始するテーマである
  • 中間声部(テナー)である
  • 実際の聴覚上テーマとしての展開として感じ取れる


等の要素からテーマとしての役割を十分維持していると考え変形テーマ扱いにしました。その後のT14直前にもM1-M2途中というテーマ開始部のみがありますが、

  • 直後に同声部で正式なテーマが続く
  • ソプラノで展開される
  • 実際の聴覚上テーマの展開としては感じ取れない


等の要素からテーマとしての役割を果たしてはいないものと判断しテーマからは除外しました。もう一つの変形テーマはT17で最初の音が四分音符で開始されています。最後に特筆するべきは楽節3最後にT19(Ⅱ)というⅠ・Ⅴ以外から始まる初のテーマが出てきます。正確にはT16(Ⅴ)も転調に先行して現れるため転調前ではⅥとなりⅠ・Ⅴ以外ですが、T19(Ⅱ)に関しては転調後のG-DurにおいてさえⅥとなりテーマを通してⅠ・Ⅴ以外になるという意味でも初のⅠ・Ⅴ以外です。最後に楽節4は


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のようになっています。最初のT18(Ⅱ), T19(Ⅵ)は新調G-DurにおけるⅡ・Ⅵの意味で書いています。その後T20へT21がストレッタ、T22へT23がストレッタで入り終止します。前楽節から続く二つのテーマを含め六つのテーマのうち3つまでがⅠ・Ⅴ以外のテーマです。またコデッタも楽節1同様多いのですがこれは後ほどまた触れます。

今回はこのくらいにして次回は細かいモチーフを見ていきます。


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